菊地は時々、カメラは拳銃だと言う。
他人の瞬間を勝手に切り取ってしまうのだから、確かに殺人行為なのかもしれない。
それが彼女が自分の写真を撮り続けている理由なのだろうか。

シャッターとトリガーが似ているからか、拳銃の形を真似たカメラは数多く存在する。
ドリューのようなピストルカメラはキッチュな趣味物として知られているが、
世界大戦中のイギリスでは実際に軍の射撃訓練に使われたものがあったらしい。
人を殺す代わりに、撮影者は正確な狙撃をしなくてはならない。自分が撃たれるからだ。

「実弾を使う変わりに引き金を引いて目標物を撮影し、写真に写っていれば実際に着弾したことと等しい効果が得られた」
1915 Thornton Pickard Photographic Rifle Mark III (2008 日本カメラ博物館の説明より)